実際の導入例および論文のご紹介

「サウスウェスト・エアラインズ社とMBTI」

出典:アーサーアンダーセン社のHR管理者向けガイド、 HR Director - The Arthur Andersen Guide to Human Capitalモ(1988/99年版)
より教育目的のため再版翻訳,Japan-APT ニューズレター №7掲載

 “トリプル・クラウン・ワン”は、定時運行記録最優秀賞、手荷物取扱い最優秀賞、顧客の苦情最少賞という、第五回Triple Crown(三冠王)を受賞したサウスウエスト・エアラインズ社の24,000名を超える社員の功績を称えて、特別にデザインされた飛行機である。

 1989年の総所得が10億円を超え、1997年の年度末には25回連続で黒字を記録し、6回連続で収益の新記録を更新した大手航空会社を成長させていくには、どうしたらよいだろうか。人件費や福利厚生費を切り詰めて、航空運賃の設定をより安くすればよいのだろうか。それとも、定時運行、顧客からの苦情の少なさ、安全運行の最高記録、細部にまで行き届いた手荷物の取扱いに対する評判をほしいままにするために、洗脳されたクローン部隊を使って、ロボットさながらの効率的な働きを求めればよいのだろうか。

 サウスウエスト・エアラインズ社の返答は、職務満足や安定性、やりがいや楽しさがなかなか収益につながらない企業社会において、驚くほど希望に満ちたものだった。

 サウスウエスト・エアラインズ社の秘密、それは社員に革新すること、自分のコミュニケーションスタイルや自分を理解し他者にも配慮すること、そして型破りな一匹狼になろうとも、個の確立を奨励することにある。社内では、ピープル(人)、パーソナル(個人的なこと)、パーソナリティーズ(個性)など、“P”のつくことばが積極的に使われている。社員が雇用される部署もこの精神にのっとった名で呼ばれている。サウスウエスト・エアラインズ社には人材開発部門というものはない。あるのはピープル部門だけだ。

 サウスウエスト・エアラインズ社は、「企業とは多部門の統一事業体ではなく、ピープル(人の集まり)だ」という信念から行動を起こし、これまでの企業理念からの方向転換を図っている。会長兼最高経営責任者のハーブ・ケレハー氏は、「競合会社は我々の真似をしようとしてきたが、どれも失敗に終わった。なぜなら、彼らは我々のピープルをコピーすることはできないからだ」と、力強く述べている。アメリカの模範企業上位十社を決定する調査で、“アメリカの偶像”と紹介されたこの航空会社は、社員を尊重することと、自由裁量の余地と激励とを社員に与えることが、誰にも予測できない以上の能力の発揮につながり、成功をもたらす一番の方策になると信じている。

<サウスウエスト・エアラインズ社のユニヴァーシティ・フォー・ピープル(人のための大学):リーダーの育成と、影響力の創出>

 1日につき2300便もの運行を果たし、25,000名以上もの人を雇用している航空会社では、混乱や無秩序状態を引き起こさずに、個の確立、改革、楽しさへの支援はどのように行われているのだろうか。大部分のところ、この成果は社員教育によるもので、そのほとんどがサウスウエスト・エアラインズ社の明るく楽しい雰囲気のラーニング・センター、“ユニヴァーシティ・フォー・ピープル”で行われている。ファシリテーターのブライアン・アレン氏によると、サウスウエスト・エアラインズ社は学習を、ひとつの終わりのないプロセスととらえているそうだ。そのため、個々の社員は、ときどき開かれる研修よりも、日常的な体験から学ぼうとする“意識的な学習者”となるのだ。

 ユニヴァーシティ・フォー・ピープルのトレーナーは、ファシリテーターと呼ばれ、二種類の基本ツールを使って、この現在進行形の学習環境の基盤を築き上げている。ひとつは、“ラーニング・スマート(賢く学ぶ)”と呼ばれるもので、日常の職場での体験から学ぶことを奨励するテクニックである。もうひとつの選択は、MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)である。

“MBTIとは何か、サウスウエスト・エアラインズ社ではどのように利用されているのか?”

 MBTIとは、心理学的タイプの指向についての理解を促すために考案された性格検査である。もともとは、1940年代にイザベル・ブリッグス・マイヤーズとキャサリン・クック・ブリッグスによって、カール・ユングの人間の性格理論をわかりやすく、日常生活で使いやすいものにするために開発され、いまでは世界でもっとも広く活用されている性格検査となっており、もっとも洗練されたものとしても知られている。

 MBTIの目指すことは、個人にレッテルをはることでも、良い性格や悪い性格をあてがうことでもなく、お互いの理解やよりよいコミュニケーションを可能にする雰囲気を創ることである。四文字で表記されるタイプは、個人が(1)外向と内向のどちらを指向するか、(2)感覚機能と直観機能のどちらを指向するか、(3)思考機能と感情機能のどちらを指向するか、(4)判断的態度と知覚的態度のどちらを指向するかを示す。個人の行動、価値観、態度は、いろいろな要因が絡み合いながら生じてくるものだが、MBTIでは、各タイプを指向するほとんどの人に共通している普遍的なパターンを要約して紹介している。

 同社では、MBTIはチーム・ビルディング、葛藤場面の解決、リーダーシップ・プログラムにおいて効果的に利用されている。ほとんどの問題がコミュニケーションをめぐる領域のものであるため、MBTIは、障害、ストレス、葛藤場面がどのように起きてくるのかを検討するための自己分析ツールとして使われている。「MBTIは、社員それぞれが自分たちの本来の才能や長所を学び合うきっかけになっています。個人間の多様性を有効活用し、問題や状況をさまざまな視点からとらえようとすることで、社員同士のまとまりが生まれてくるのです」と、アレン氏は述べている。

 また、アレン氏は、スタッフ職員同士に対立が見られたため、チーム・ビルディングを目的としてMBTIを利用したある管理職員の例をあげた。対立をおさめるためのプログラムにMBTIを利用したことにより、その職員間でコミュニケーションへの道が開け、お互いの相違がチームワークに意味のある役割を果たしていることが事実として認識された。「いまや、チーム内のコミュニケーションは大いに改善されており、それによってチームの成果や生産性は確実に伸びてきています。」

 競争原理や猛スピードの変化に従わざるを得ない業界では、高い知性や、やる気のある労働力が不可欠である。同社のユニヴァーシティ・フォー・ピープルは、大急ぎで、そして、確実に、どこかに向かっている企業のために問題解決を迫られている社員に必要不可欠な知識と理解する力とを与える上で、MBTIを導入しているのだ。

日本におけるMBTIの導入事例

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