実際の導入例および論文のご紹介

日本MBTI協会認定MBTIアドバンスユーザ(レベル2有資格者)による論文

「学生相談領域でのMBTIの利用について」
(富山大学 酒井渉)

出典:Japan-APT第1回大会プログラム(2005年刊)

日本MBTI協会認定MBTIアドバンスユーザー(レベル2有資格者)による論文

1.MBTIの導入目的−なぜ、自分の専門分野でMBTIを用いようと思ったのか。

 筆者は、大学内の学生相談室において、心理カウンセラーとして大学生のさまざまな相談に応じ、心理学を基盤とした対応をすることを業務としている。

 多くの学生にとって、低学年のうちは将来の自己像や職業を積極的に探索していこうということではなく漠然と「仕事」や「将来」のことを考えていて、就職活動直前になってあせり出すというのが現状であろう(畠山 2002)。こうした現状を踏まえ、学生のキャリア選択を支援する目的で導入された。ただし、「就職支援」ということではなく、学生本人の主体性のもと、自分の個性や長所を認識していくことを通して、キャリア選択を支援するのが目的である。

 もっとも、MBTIの利点・魅力はそれにとどまらないのであり、現在まで、様々な目的の学生が、MBTIを受検しフィードバックを受けている。

2.MBTIの展開方法と実践内容−どのように導入をはかり、実践を展開して行ったか。

 個人面接内での試験的利用(2000年度)および、ワークショップ形式での試験的利用(2001年度)を経て、その後導入した。学内でのポスター掲示やホームページでの広報を行っている(畠山 2002・酒井 2002)。

 「MBTIを用いた自己理解のためのワークショップ」と題して、学生8人から12人程度を対象とした、ワークショップ形式で実施している。ワークショップ当日は、以下のような要領で行っている(酒井 2002)。

 ①自己紹介

 ②ユングのタイプ論についての説明

 ③「ベスト・フィット・タイプ」を探してもらう

 ④グループワーク(Japan-APTのMBTIトレーニング講座で行われたもの)

 ⑤タイプとキャリア選択、リーダーシップ、職場における特徴について説明

3.MBTIの効果−どのような効果をあげているか。

①目的と達成感

 事前・事後アンケート(2001年度後期・2002年度)において、参加の目的および、目的の達成感を尋ねる質問を設けている。自己理解と就職のどちらを目的とする学生であっても、大部分の学生が①または②と答えている(回答総数 114)(酒井2002・酒井・畠山・松橋 2003)。

  はい   どちらでもない   いいえ 達成感の平均
(1) (2) (3) (4) (5)
自己理解 23 24 5 1   1.70
就職 9 15 2 2   1.89
自己理解+就職 6 10   1   1.76
空欄 8 6 2     1.62

②「ベスト・フィット・タイプ」に対する満足度

 また、事後アンケート(2002年度)において、自らの「ベスト・フィット・タイプ」に対する満足度を0〜100%でたずねたところ、平均値は85.5%であった(回答総数 75)。

③どのような点でプラスになっているか

 また、2002年度後期には、ワークショップに参加したことがどのような点で学生のプラスになっているかを知るためのアンケートを実施した(酒井2002・酒井・畠山・松橋 2003)。

 項目の作成については、MBTIを体験済みの当センターのスタッフ8名に自由記述式のアンケートを行い、その結果を、MBTI認定ユーザー資格をもつスタッフ2名が、KJ法を用いて整理し、項目を作成した。また、2002年度前期までの事後アンケートにおいて、参加学生が自由記述欄に記入した内容も項目に加えた。

 回答形式は、「5そう思う」「4まあまあそう思う」「3どちらでもない」「2あまりそう思わない」「1そう思わない」の5件法であり、無記名である。

 全52項目の平均値の分布は、4.81〜2.19の間である。また、平均値が高かった上位10項目は、以下の項目である(回答総数 31)。

  全体 3・4年
1.就職活動で、エントリーシートを書くときの参考になる。 3.87 4.00
4.進路選択などの岐路に立ったとき、自分が大切にしているものに基づいて考えられるようになる。 3.87 4.00
2.就職活動での、自己PRの参考になる。 3.81 4.09
7.就きたい職業のなかで主流派ではなくとも、自分のタイプを活かして貢献できることがわかる。 3.74 3.82
6.自分の能力が活かせる環境について知る。 3.68 3.73
3.自分の希望する職業に就くために、自分のどういう部分を伸ばせばよいかがわかる。 3.65 3.68
5.自分の良さを発揮できそうな職業や職種について知ることができる。 3.58 3.59
9.就職に関して意欲が沸いてくる。 3.26 3.27

 なお、進路選択や就職活動に関する8項目の全体の平均値は、3.87〜3.26の間に分布している(回答総数 31)。

 また、全体の平均値と、学部3・4年生のみ(22人)の平均値を比較すると、学部3・4年生のみの平均値のほうが、やや高くなっている。

④職業未決定に対する有効性

 その後、筆者は、大学の非常勤講師として、法学部・経済学部・外国語学部・工学部等の学生を対象とした一般教養科目を、講義する機会を得た。2004年度後期の全14回のうち5回を、MBTIを用いた授業に充て、これまで学生相談場面で行ってきた「MBTIを用いた自己理解のためのワークショップ」とほぼ同様の内容で行った。

 職業未決定に対するMBTIの有効性を検証する目的で、MBTIを用いた授業の初回冒頭と、最終回の最後に、職業未決定尺度(下山 1986)の回答を依頼した(酒井・畠山 2005)。

 職業未決定尺度は、下山によって作成された、3件法の39項目からなる質問紙である。

混乱 職業決定に直面して不安になり、情緒的に混乱している状態
未熟 職業意識が未熟なため、将来の見通しが無く、職業選択に取り組めないでいる状態
猶予 職業決定を猶予して当面のところは職業について考えたくないという状態
模索 職業決定に向かって積極的に模索している状態
安直 自らの関心や趣味を職業選択に結びつけていこうとする努力をしない安易な職業決定態度
決定 職業の既決を示す

 「混乱」「未熟」「猶予」「模索」「安直」「決定」の6つの下位尺度がある。

 実際にMBTIを受検し、全5回に出席した者17名のみを分析対象とした。職業未決定尺度の6つの下位尺度のうち、「未熟」「安直」「決定」に、有意傾向がみられる。

 <t検定>          (回答総数 17)

  混乱 未熟 安直 猶予 模索 決定
平均の差 -.412 .765 .529 .000 .529 -.471
有意確立 .416 .079 .083 1.000 .455 .072

⑤考察

 「MBTIを用いた自己理解のためのワークショップ」は、自己理解と就職支援のどちらを目的とする学生であっても、それなりに目的達成につながっていることが分かる。

 また、参加学生にとって、自己理解や、タイプの多様性を知ること、タイプを優劣ではなく同等に価値のあるものとして理解することなどに、プラスになっていることがわかる。また、多くの学生が自らの「ベスト・フィット・タイプ」に高い満足感をもったことがわかる。

 MBTIは適職検査ではないが、進路選択や就職活動に関しても、ある程度プラスになっていることがわかる。特に、学部3・4年生にとっては、進路選択や就職活動に関して、よりプラスになっているようである。また、職業未決定に関して「未熟」あるいは「安直」状態にある学生にプラスに働くことが示唆された。また、「決定」を促すことが示唆された。ただし、総数を増やして、この結論をたしかなものにする必要がある。

4.MBTIの今後の課題−今後にわたる課題はなにか。どんな展開が考えられるか。

 他の学内サービスとの効果的な連携は、今後の課題である(畠山 2002)。就職関係部署などとともに相乗的な効果をあげるには、どうしたらよいだろうか。

 また、MBTIやユングのタイプ論の知見を広く役立てるためには、心理学の基礎研究への展開が必要である。

 現在、MBTIを用いて、大学生のストレス対処とユングのタイプ論および、精神的健康度との関連についての研究を進めている(酒井・郷・畠山 2004)。心理学的タイプ(指向)によって好まれるストレス対処、功を奏するストレス対処があることや、タイプ・指向にかかわりなく有効、あるいは有害と思われるストレス対処がみられることがわかった。(とくにTF指標がストレス対処の好みと関連がある。)例えば、Tを指向する人にとっては概ね有効なストレス対処であっても、Fを指向する人にとってはそうでないことがある。逆もまた、しかりである。

 研究を通じて、データの分析に際して、心理学的タイプを考慮することが重要であろうことが示唆された。心理学的タイプを考慮せず、単にデータを増やすだけでは、その文化でのマジョリティのタイプについて調べていることにしかならないと思われる。

 また、心理検査によって、特定のタイプ(指向)に対して相性があるのではないかと思われる。こういった点も考慮する必要があろう。

 また、臨床心理面接におけるアセスメントのためのツールとして、MBTIの実施が検討されてもよいと思われる。

文献(ABC順)

畠山朝子 (2002):キャリア教育の一環としてのMBTI(R)ワークショップについての報告①.日本学生相談学会第20回大会発表論文集,66-67.

酒井 渉 (2002):キャリア教育の一環としてのMBTI(R)ワークショップについての報告②.日本学生相談学会第20回大会発表論文集,68-69.

酒井 渉・郷 百合野・畠山朝子(2004):大学生のストレスコーピングとJungの心理学的タイプとの関連について−CISS、SCI、MBTI(R)、GHQ30を用いて−.日本心理臨床学会第23回大会発表論文集,206.

酒井 渉・畠山朝子(2005):大学生の職業未決定に対するMBTI(R)の有効性に関する研究.日本学生相談学会第23回大会発表論文集,84.

酒井 渉・畠山朝子・松橋純子(2003)  MBTI(R)を用いた自己理解ワークショップに参加した学生の満足度等に関する調査研究.日本学生相談学会第21回大会発表論文集,92-93.

下山晴彦(1986):大学生の職業未決定の研究.教育心理学研究34,20-30.

※ なお、Japan-APTの倫理規定が改正されたため、現在は「MBTI(R)ワークショップ」という呼称を用いていない。

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