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「キャリア開発とMBTI」
(園田由紀)
出典:「キャリア・カウンセリング39号」(発行:特定非営利活動法人 日本キャリア・カウンセリング研究会)
私たちは、朝おきてからすぐに何かを見たり感じたりしては何かを思い考え、また何かをとらえては判断するということをずっと続けています。たとえば、目を覚ました瞬間、時計を見る、そして、「寝坊した」と判断したり、あるいは電車の中で、目の前にいるすわった人が昔の知り合いに似ていたりすると、突然そのころに立ち戻り、その人との会話を振り返り、懐かしいと思ったり、などなどです。私たちの心は、このようにずっと情報の処理をしており、小さな判断から大きな判断まですべてをおこなっています。しかし、私たちは、自分たちのそうした当たり前の心の働きにあえて目を向けて、今何を見てどう判断したかということについて明確に気づいていないことが多いとされています。なぜなら、朝起きたと同時にもう心は働いているので、自分にとってはあまりにも当たり前のように働いているため、そのつど意識をしていないのです。それは空気の存在を毎日意識しないのと同じかも知れません。また私たちは自分たちの心は、自分たちのものであるにもかかわらず、自分の心をすべて知っているわけでもありません。ときには自分の心は勝手に動いているとさえ思ったりしているときがあります。
ユング(C.G.Jung)は、私たちのこうした心の働きは、決して不規則に動いているのではなく、それぞれにはパターンがあり、そのパターンが人の性格を生成しており、そのパターンのなかに、その個人にしかない強みと動機があり、個人が本来のぞんでいる方向に導く羅針盤として機能するとした心理学的類型論という理論を1921年に提唱しました。
この考えが、人との比較で性格をとらえるのではなく、その個人だけに焦点をあてその人の持って生まれた強みを理解したり、より生き生きとするための指針を得られたり、また他者との違いを善し悪しではなく建設的にとらえる枠組みを得られるので、それをもっと一般の人の日常に役立ててもらいたいという動機から、米国人の母娘のイザベルマイヤーズとキャサリンブリッグスが20年以上もかけて性格検査の形にしたのがMBTI(R)、Myers− Briggs Type Indicator(R)です。
<MBTIとは>
通常、あなたの性格は?や友人や家族の性格は?ときかれたらどのようにみなさんは答えるでしょうか。「明るい」や「積極的」あるいは「面倒見がよい」や「つめたい」などいろいろな言い回しがあると思いますが、たいていのみかたは、ある基準(自分や他者など)と比較した結果の見方でみていることが多くあります。この見方を特性論のアプローチといいます。特性論とは、誰もが持っている特性の量や程度を基準と比較して見る方法です。「明るい」という見方は、自分の明るさや今まで出会った人の明るさとその人を比較して、明るさが強ければ、明るい人となるでしょう。性格以外でも、たとえば、身長や体重など、また知能なども、特性論のアプローチで見ていることがほとんどです。この特性論の見方は集団のなかにその個人を位置づけてみるときにはとても有効ですが、比較をもととしているため、その人だけに焦点があたっていないことがほとんどなのです。ようするに極端にいえば基準が変わるとその人に対する性格の評価も変わるといった具合です。
一方、MBTIは、特性論ではなく、タイプ論という考えがベースとなっており、人を量や程度で見るのではなく、その人の持って生まれた質でみてゆきます。ただ、タイプ論ときくとすぐさま類型化することを目的とするものと誤解されがちですが、MBTIはそれを目的とはしていません。個人の強みや弱みについて、他人やなにかの基準と比較するのではなく、その個人だけに焦点をあて、その人のもって生まれた持ち味やその人の強みとなる動機を見出し、自分を人と比べることなく活かす指針を得てもらうことをもっとも重視しています。そのため、検査結果でその人を判断するのではなく、一定の訓練を受けた有資格者のもと、自分自身で結果を検証していくメソッドとなります。したがって、検査結果で「あなたはこういう人と判断されました」というようなやりかたは一切しません。検査結果を受けた本人が見て、その結果に本来の自分が表現されているのかどうか、受けた当人がいろんな演習をしながら、確認していく作業のほうを大切にします。そのため有資格者のレベルが受検者の利益を左右するメソッドともいえますので、MBTIは一定の訓練を受けた人にしか購入、実施、フィードバックができないだけでなく、有資格者自身には、世界共通の厳しい倫理規定を遵守することが義務付けられています。これはMBTIの有資格者は、世界各国では「MBTIプロフェッショナル」といわれていることに代表されているといえます。MBTIは受検者の利益が、常に最優先されるべきものであり、有資格者はそれを実現させるべく自己理解を支援する専門家でなくてはならないからといえます。
<MBTIの基本的な考え方>
性格の捉え方はさまざまですが、ユングは、次のように性格をとらえたのです。まずわれわれの心は、自然界にある闇と光、陸と海などのいわゆる二律背反の構造のもとになりたっており、どちらか一方のほうが、その人が自然と用いやすく(指向)、興味を持ちやすいほう同士が相互に作用して、ひとつのパターン(タイプ)を生成するとしました。
まず、私たちの基本的な心の働きには、情報を集める知覚機能と情報をまとめる判断機能があります。知覚機能には、見たり聞いたり観察したりするいわゆる五感をもとに情報を集める感覚機能S:Sensingと、ひらめきや関連性またパターンなどから情報を集める直観機能N:Intuitionがあります。もしいま、字づらをそのまま目で追いながら読み進めている場合は感覚機能で情報をあつめており、行間から情報を集めている場合は直観機能が働いていると考えられるでしょう。一方の判断機能は、対象から距離を置いて原理原則に照らし合わせて結論を導く思考機能T:Thinkingと、対象の中に自分を位置づけて自分の思いや価値観、気持ちなどと照らし合わせて結論を導く感情機能F:Feelingがあります。
そしてこれらの機能を働かすために動くエネルギーも二律背反で成立しており、そのエネルギーが個人の外界(その個人の皮膚より外)で用いられる場合と内界(皮膚より中)で用いられる場合があり、前者が外向(E:Extraversion)、後者は内向(I:Introversion)となります。ここで注意されたいのが、ユングのタイプ論で用いられる言語は、通常用いている言語と意味がまったく異なるところです。通常のとらえかたで考えるとユングのタイプ論の理解は理解しがたいため、これらの言葉についてすでに読者の皆さんが持っている定義があるとしたら、可能な限り白紙に戻して理解していただきたいのです。すなわち、外向=外向的や積極的、内向=内気や消極的とはまったく定義が異なるということです。
ユングは、先に述べたいずれの機能もエネルギーも誰もが持っているため全部使えるが、手に利き手があるように、心にも利き手(指向)があり、その利き手のほうを個人内で優位に用いることで、外向思考(Extraverted Thinking)や内向感情(Introverted Feeling)など、タイプが生成されるとしたのです。また心がまとまって動くためには、それらの機能に序列があり、個人がもっとも優位にする心を主機能、それを補佐するために働く心は補助機能、主機能と補助機能をサポートするのが第三機能で、その個人がもっとも劣位にする機能を劣等機能としました。これはタイプダイナミクスといわれる理論です。
主機能は、個人の心を先導する心であるため内在化したモチベーションと密接な関係があるため、人はこの主機能が満足するように生きたり、選択肢をえらぼうとするといわれています。なぜなら主機能が満足することでその個人がより生き生きするからです。特に大きな選択をする際には、主機能に頼りたいという衝動が個人のなかにはあるので、キャリアの選択など大きな選択においては、主機能がその個人を先導し、判断を下そうとします。また自分の中に劣位にしている劣等機能は、自分の内なる教師として人生の後半になると個人が成長するうえで重要な役割を担っているとして、マイヤーズは、これらダイナミクスの考えが、個人が自分の持ち味をさらに生かしたり、個人の成長の過程でつねに羅針盤となることに着目し、それを提供する検査にしようと、もうひとつの指標を開発しました。それが、外界への接し方という指標です。これは、人は日常において、人と話をしたり、電車に乗ったりなど、その人の外界とかならず接して生活しており、外界の情報を集めることを優位にして外界に臨機応変に臨んでいる場合は知覚的態度(P:Percieving)が働き、一方で外界に枠をまず設け対応することを優位とし体系立てて外界に臨んでいる場合は判断的態度(J:Judging)を使っていると提唱しました。
これらすべての指標の利き手を組み合わせると、下記のように、2の4乗となり16タイプが生成されるわけです。さらにマイヤーズが独自に開発したJP指標から、知覚機能か判断機能のどちらを外向で使っているかがわかるようになりました。外向を利き手としている場合は外界が得意なためそこで主機能が用いられ、内向が利き手の場合は内界が得意なため内界で主機能を使い、外界では補助機能を使うことに着目しました。MBTIのタイプがわかると、その指向の序列もわかるようになったのです。
この指向の序列、タイプダイナミクスについては、とても複雑な考えをするためここですべてを説明することは困難を極めるため、ほんの一例を紹介します。たとえば主機能が内向感覚の場合は、実際的な知識が十分に自分のなかで蓄積されるとそれがドビングフォースとなり、対極の外向直観が主機能の場合は、実際的なデータや実証がたとえなくとも、ひらめきを伴う可能性が見えたときに一番モチベーションがあがる、となります。(もっと詳細についてご興味をお持ちのかたは、「MBTIへの招待」R. ペアマンほか著・園田訳、「タイプ入門:タイプダイナミクスと発達編」L. Kirbyほか著・園田訳などをご参照ください)。
表 1(下記図の太字が主機能)
ISTJ | ISFJ | INFJ | INTJ |
ISTP | ISFP | INFP | INTP |
ESTP | ESFP | ENFP | ENTP |
ESTJ | ESFJ | ENFJ | ENTJ |
<MBTIとキャリア>
1940年代に初版開発されて以来、ユングの普遍的な理論がベースとなるツールであることからその有益性は国境を越え、現在25カ国以上に翻訳され、40カ国以上で利用されています。また利用範囲も幅広く、心理・キャリアカウンセリングをはじめ、リーダーシップ開発、チームビルディング、コンフリクトマネジメント、ストレスマネジメント、教育における教授法と学習法、また医療場面など、現在世界でもっと利用されている性格検査となっています。しかし特に、キャリアカウンセリングにおいては、米国ではディファクトスタンダードとなっています。
なぜでしょうか。それは一人ひとりの人生は、その個人の日々の判断の積み重ねによってなりたっているからです。特にキャリア選択のように人生を大きく左右する大きな判断をするときには、自分が何に基づいてものごとをとらえ、どこに価値をおいて判断をしたのかについて意識的に知っていることが、自分を活かすためのなにをどう決め、なにを努力すればよいか、そのときそのときでおのずと見えるからでしょう。また、一人ひとり固有のパーソナリティは、適性はもとよりスキルや能力、技術と同等に、あるいはそれ以上、その個人にとっては重要な資源のひとつであると考えられるからです。
米国では、大學4年次に、MBTIの有資格者であるキャリアカウンセラーらの支援のもと自己分析ツールとしてMBTIが用いられ、自分がそもそもどのようなことに自然と興味を持ちやすくまたどのようなことに自然と興味がわかないのか、あるいはどのようなことに焦点をおいて物事を捉えることや価値を置くことに労力を必要とするのか、またそれらがなぜなのかについて分析をし、そのうえで自分をより活かしたキャリアを選択していくというプロセスをふみます。そこには、周囲の期待などではなく、また人と比べての適性などを見るのではなく、あくまでもその個人が主体的にかつ意識的に、自分のキャリアとどうかかわるかについて分析をし、自分の人生をより高めるための終わりなき成長のプロセスの一旦としてキャリアを意識的に選択するための支援ツールとして活用されるのです。
また、米国でこんな研究があります。タイプが異なる人たちが、図書館司書の仕事のどこにやりがいを感じているかを調査したものです。図書館のカウンター資料について質問に答えるという同じ仕事をしているそれぞれの16タイプの人たちにインタビューしたもので、業務としてはみな同じ仕事をしているわけですが、それぞれが独自の専門領域を見つけて、それぞれ異なるある特定の部分により大きな満足を感じており、司書の仕事に自分なりの満足を覚えているという結果になっています。たとえば一人で静かに情報の整理をすることが喜びであるとする人、人のニーズを先読みをして、それをてきぱきとさばくことに楽しさを感じている人、自ら選択し推薦した図書を紹介したときに相手に喜ばれる瞬間が生きがいとうったえる人、そして書籍に囲まれていること自体がうれしいと答える人などさまざまです。既存の仕事について向きあうときも、自分が満足を見出しやすいことを理解していると、どんな仕事であっても、自分本来の持ち味を活用しやすいように職務環境を積極的に変えていく方策を考えたり、仕事に創造性がうまれたり、自分があえて労力を必要とする部分を開発したり、自分も仕事も成長を促せやすくなるのです。
MBTIはこうして、通常多くの時間を割かなければみえてこない自分の深いところに存在している動機の部分を見出すことを可能にし、また生涯発達の視点がもりこまれていることから、一度このフレームワークが個人のなかで深く体験されると、半永久的に自分の成長の羅針盤として機能してくれることから、ライフ ロング キャリアという観点からも、有益にもちいられるメソッドといえるでしょう。
<日本におけるMBTI>
正式な日本版のMBTIは、1990年代から開発され2000年に出版(園田)、同年、米国心理学会認定MBTI学会APTと提携して世界企画の資格付与トレーニングも開発、展開されています。いままでにすでにのべ3000人の有資格者が誕生しています。JCCの方々も多く受講されていらっしゃいます。
2003年には、APTの日本支部としてのJapan−APTが正式に立ち上げられ、現在500名近くの有資格者で構成され、2005年11月には、海外の有識者を招いての初の学会が開催されました。日本でも、世界同様、キャリアカウンセリングを筆頭に、現在さまざまな分野で活用されております。MBTIおよび資格付与トレーニングに興味をもたれた方は、中間法人日本MBTI協会事務局(03-5367-3181 9:00〜17:00 または、info@nihon-mbti-kyoukai.org)まで、是非お問い合わせください。
今後、さらに一人でも多くのキャリアカウンセリングに携わる方がたがMBTIを有益に活用していただければ幸いです。
(R)MBTI and Myers-Briggs Type Indicators are registered trademarks of Myers-Briggs Type Indicator Trust in the USA and other countries,.