実際の導入例および論文のご紹介

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「平成19年1月13日に日本橋教室で行われた東京支部特別講座での講演要旨」
(園田由紀)

出典:「いまここ」(発行:社団法人 日本産業カウンセラー協会 東京支部、2007年3月)

はじめに

なぜ自己理解が大切なのでしょうか。カウンセリングの相談に来る人に限らず、誰もが「自分を知る」という作業は、自分自身の人生や自分に対する満足度を高めるためには不可欠です。また、自分自身に対する満足度は、他者に対する受容度と比例しますので、特に人に密にかかわる心の専門家はしかり、人の上にたつ管理職や経営者、子供の人生に大きな影響をもたらす親が自分を的確に認識していない場合は、本人が意図せずして他者に害を与える可能性が大きくなったりする危険が伴います。自分を知るということは、自分を肯定するための作業でもあり、他者を受け入れる作業ともいえます。
ただ、人の心の作用というのは人が考えうる以上に複雑で、自分を知るという作業は、簡単なことではありません。複雑な心を何かひとつの理論にのっとってすべてを説明することは不可能です。また人は成長し続けますから、いったん自己理解をしたら終わりではなく、一生涯続く作業といえるでしょう。実際に、私たちは、小さなことから大きなことまで、日々選択をしながら生活をしており、その選択は自分自身がおこなっているわけですから、そのときそのときの「自分の心の声」が聞こえているのといないのでは、あきらかに自分自身の生かされ方は異なります。特に大きな判断をするときに、自分を的確に把握していないと、情報に流されたり、社会に迎合したり、向き合いたくない課題であった場合は、その課題から逃げるという選択をしてしまうこともあるでしょう。

当然いろいろと寄り道や遠回りをしながら自分を知っていく過程は大切です。ただだれもが「自分らしく」生きたいという衝動をもっているために、”自分らしくない”方向にすすみすぎると、心だけでなく、身体にも不調をきたすことが増えたりします。「自分らしく」成長するため、いきるために、ありとあらゆる場面で心もときには身体さえも情報を提示しますが、私たちの心には意識している部分とそうでない部分があり、そのつど心の声を的確に把握することは無理な話です。しかし日々の生活の中で、どのように生きるか、というノウハウだけでなく、なぜその判断をしたのか、その判断が自分を生きる上で的確だったか、というような問いを自分自身になげかけたり、成長のために与えられ続ける課題と向き合うことで、自分の意識の部分を広げてゆきやすくなります。そうすることで「本来の自分」と接点がもちやすくなるために、「自分自身を生きる」ことにつなげやすくなるでしょう。

そもそも私たちの心にはキャラクターとパーソナリティがあるといわれており、キャラクターというのはもって生まれた先天的な性格で、パーソナリティは後天的に身に着けた性格です。パーソナリティの語源はPersonaからきていますが、これは役者が役割を演じるときにかぶる仮面を意味します。したがってペルソナとは、私たちが生まれた後、社会に適応するために身に着けた役割性格ということになります。もって生まれた資質と役割性格が相互作用して一人ひとりの心というのは成長していくわけです。

通常自己理解というと、多くの場合、役割性格の自己理解に力点がおかれがちで、本来の自分のもって生まれた個性については軽視したり、ときどき、その存在をまったく無視することさえあります。特に私たち日本人は、教育の過程でも生活の中でも、「自分自身がどう考えるか」について深く考えるシステムが存在していません。集団の一員として生活していかないと、集団からはじかれるという心象は私たち日本人のなかに根強くありますから、集団に受けいれられるようにペルソナをまず育てることが優先される傾向があります。当然ペルソナも大事な自分の一部ですし、それがないと、社会生活が営めません。しかし、個人のもって生まれた持ち味 (すなわち自分の資源) を知ることは、たぶん後天的に身につけた性格を理解したり成長させたりする以上に大切といえるでしょう。

これは企業が事業として成功をおさめるためにその会社がもっている資源を把握することが不可欠なことと似ています。私たち一人ひとりを企業と同様にひとつひとつの“事業体”と考えると、ひとりひとりの資源を把握することは、自分という大事業を成し遂げるためには、必要不可欠なことなのです。

MBTIというメソッドについて

自分を知るという検査や手法は数多く存在しますが、今日は、“MBTI”(Myers-Briggs Type Indicator)という、個人のもって生まれた、キャラクター、のほうに焦点をあてて、自己理解を促進するメソッドをご紹介します。このMBTIは、米国では50年以上の歴史があり、世界でも最も利用されている性格検査のひとつです。このメソッドの特徴は、人の性格を行動面や言動面だけ、いわゆるペルソナから性格を理解するのではなく、なぜそのような行動をとったのか、なぜそのようなみかたをしたり判断をしたりしたのか、というところに焦点をおきながら、その人の持ち味や内在化されている動機について理解を促すものです。

日本では、2000年から本格的に導入がされ、MBTIの有資格者(認定ユーザー)も600名を越え、現在、カウンセリング分野だけでなく、企業内の人材育成の研修やリーダーシップ研修、コミュニケーション研修やコンフリクトマネジメント、そしてストレスやセルフマネジメントなどで用いられ、さらに医療、福祉および教育の場面で多く用いられはじめています。

1)基本的な考えかた

私たちは、朝おきてからすぐに何かを見たり感じたりしては何かを思い考え、また何かをとらえては判断するということをずっと続けています。たとえば、目を覚ました瞬間、カーテンの隙間からもれる光を見る、そして、「朝がきた」、「起きよう」と判断したり、あるいは電車の中で突然し忘れた仕事のことを思い出し、どうしようと動揺したり次のアクションについて必死に検討し始めたり、などなどです。私たちの心は、このように情報の処理を絶え間なくしており、小さな判断から大きな判断まですべてをおこなっています。しかし、自分たちのそうした当たり前の心の働きにあえて目を向けて、今何をとらえ、どう判断したかということについて明確に気づいていないことが多いとされています。なぜなら、朝起きたと同時にもう心は働いているので、自分にとってはあまりにも当たり前のように働いているため、自分の心の働きにあえて意識を向けていないからです。それは空気の存在を毎日意識しないのと似ています。

ユング(C.G.Jung)は、私たちのこうした心の働きは、決して不規則に動いているのではなく、それぞれにはパターンがあり、そのパターンが人の性格を生成しており、そのパターンのなかに、その個人にしかない強みと動機があり、個人が本来のぞんでいる方向に導く羅針盤として機能するとした心理学的類型論という理論を1921年に提唱しました。この考えが、その個人だけに焦点をあてその人の持って生まれた強みを理解したり、より生き生きとするための指針を得られたり、また他者との違いを善し悪しではなく建設的にとらえる枠組みを得られるので、それをもっと一般の人の日常に役立ててもらいたいという動機から、米国人の母娘のイザベルマイヤーズとキャサリンブリッグスが20年以上もかけて性格検査の形にしたのがMBTI(R)(Myers- Briggs Type Indicator(R))です。

2)タイプ論と特性論

通常、性格について考えるとき、「明るい」や「積極的」あるいは「面倒見がよい」や「つめたい」という観点でとらえることが多いと思いますが、これらのみかたは、ある基準(自分や他者など)と比較した結果の見方でみていることが多くあります。この見方を特性論のアプローチといいます。特性論とは、誰もが持っている特性の量や程度を基準と比較して見る方法ですから、先に述べたペルソナに焦点があたることが多いみかたです。通常私たちがとらえる「明るい」という見方は、自分の明るさや今まで出会った人の明るさとその人を比較して、明るさが強ければ、とても明るい人となる、という見方です。性格以外でも、私たちはよく特性論をベースに見ていることが多いです。たとえば、身長や体重など、また知能などもそうです。この特性論の見方は集団のなかにその個人を位置づけてみるときにはとても有効ですが、比較をもととしているため、その人だけに焦点があたっていないことがほとんどなため、極端にいえば基準が変わると相手に対する性格の評価も変わる見方といえます。

一方、MBTIは、特性論ではなく、類型論という考えがベースとなっており、人を量や程度で見るのではなく、その人の持って生まれた質でみてゆきます。ただ、タイプ論ときくとすぐさま類型化することを目的とするものであったり、レッテル付けをするものとどうしても誤解され、狭義の理論と思われがちなのですが、MBTIは、そのようなことをまったく目的としていません。一人ひとりは固有の存在であるという前提で、かなり複雑なとらえかたをしています。そして個人の強みや弱みについて、他人やなにかの基準と比較するのではなく、その個人だけに焦点をあて、その人のもって生まれた持ち味やその人の強みとなる動機を見出し、自分を人と比べることなく活かす指針を得てもらうことをもっとも重視しています。そのため、検査結果でその人を判断するのではなく、一定の訓練を受けたMBTI認定ユーザーのもと、自分自身で結果を検証していくことに力点がおかれているメソッドとなります。したがって検査結果で「あなたはこういう人と判断されました」というようなやりかたは一切しません。検査結果を受けた本人が見て、その結果に本来の自分が表現されているのかどうか、様々な演習をしながら、自分のペルソナの部分とキャラクターの部分を分けながら自分で確認していく作業のほうを大切にします。そのために、フィードバック者の力量が受検者の理解の促進を大きく左右するメソッドともいえますので、MBTIは一定の訓練を受けた人にしか購入、実施、フィードバックができないだけでなく、有資格者自身には、世界共通の厳しい倫理規定を遵守することが義務付けられています。(ちなみに、MBTIの普及とともに、インターネット上にMBTIと似て非なるものが多く掲載されるようになりましたが、MBTIは、全世界、有資格者を介してしか実施できませんので、まったく正式なるMBTIとは無関係ですので、ご注意ください。)

3)MBTIの理論

ユングは、まずわれわれの心は、自然界にある闇と光、陸と海などと同様のいわゆる二律背反の構造のもとになりたっており、どちらか一方のほうが、その人が自然と用いやすく(指向)、興味を持ちやすいほう同士が相互に作用して、ひとつのパターン(タイプ)を生成するとしました。

私たちの基本的な心の働きには、情報を集める知覚機能と情報をまとめる判断機能があります。知覚機能には、見たり聞いたり観察したりするいわゆる五感をもとに情報を集める感覚機能S:Sensingと、ひらめきや関連性またパターンなどから情報を集める直観機能N:Intuitionがあります。もしいま、字ずらをそのまま目で追いながら読み進めている場合は感覚機能で情報をあつめており、行間から情報を集めている場合は直観機能が働いていると考えられるでしょう。一方の判断機能は、対象から距離を置いて原理原則に照らし合わせて結論を導く思考機能T:Thinkingと、対象の中に自分を位置づけて自分の思いや価値観、気持ちなどと照らし合わせて結論を導く感情機能F:Feelingがあります。

そしてこれらの機能を働かすために動くエネルギーも二律背反で成立しており、そのエネルギーが個人の外界(その個人の皮膚より外)で用いられる場合と内界(皮膚より内)で用いられる場合があり、前者が外向(E:Extraversion)、後者は内向(I:Introversion)となります。ここで注意されたいのが、ユングのタイプ論で用いられる言語は、通常用いている言語と意味がまったく異なるところです。通常のとらえかたで考えるとユングのタイプ論の理解は理解しがたいため、これらの言葉についてすでに皆さんが持っている定義があるとしたら、可能な限り白紙に戻して理解していただきたいのです。ついつい外向=外向的や積極的、内向=内気や消極的、としたくなりますが、それはまったく違いますのでご注意ください。

ユングは、先に述べたいずれの機能もエネルギーも誰もが持っているため全部使えるが、手に利き手があるように、心にも利き手(指向)があり、その利き手のほうを個人内で優位に用いることで、外向思考(Extraverted Thinking)や内向感情(Introverted Feeling)など、タイプが生成されるとしたのです。また心がまとまって動くためには、それらの機能に序列があり、個人がもっとも優位にする心を主機能、それを補佐するために働く心は補助機能、主機能と補助機能をサポートするのが第三機能で、その個人がもっとも劣位にする機能を劣等機能としました。これはタイプダイナミクスといわれる理論です。

主機能は、個人の心を先導する心であるため内在化したモチベーションと密接な関係があり、人はこの主機能が満足するように生きたり、選択肢をえらぼうとするといわれています。そのため特に大きな選択をする際には、主機能に頼りたいという衝動が個人のなかにはあるので、キャリアの選択など大きな選択においては、主機能がその個人を先導し、判断を下そうとします。また自分の中に劣位にしている劣等機能は、人生の後半になるとそれを開発することで、大きく成長をとげられるとして、自分の内なる教師として重要な役割を担っているとされています。マイヤーズは、これらダイナミクスの考えが、個人が自分の持ち味をさらに生かしたり、個人の成長の過程でつねに羅針盤となることに着目し、それを提供する検査にしようと、もうひとつの指標を開発しました。それが、外界への接し方という指標です。これは、人は日常において、人と話をしたり、電車に乗ったりなど、その人の外界とかならず接して生活しており、外界の情報を集めることを優位にして外界に臨機応変に臨んでいる場合は知覚的態度(P:Percieving)が働き、一方で外界に枠をまず設け対応することを優位とし体系立てて外界に臨んでいる場合は判断的態度(J:Judging)を使っていると提唱しました。

これらすべての指標の利き手を組み合わせると、下記のように、2の4乗となり16タイプが生成されるわけです。さらにマイヤーズが独自に開発したJP指標から、知覚機能か判断機能のどちらを外向で使っているかがわかるようになりました。外向を利き手としている場合は外界が得意なためそこで主機能が用いられ、内向が利き手の場合は内界が得意なため内界で主機能を使い、外界では補助機能を使うことに着目しました。そのためMBTIのタイプがわかると、指向の序列もわかるようになっています。

 (下記図の太字が主機能)

ISTJ ISFJ INFJ INTJ
ISTP ISFP INFP INTP
ESTP ESFP ENFP ENTP
ESTJ ESFJ ENFJ ENTJ

この指向の序列、タイプダイナミクスについては、とても複雑な考えをするためここですべてを説明することは困難を極めるため、ほんの一例をご紹介します。たとえば主機能が内向感覚の場合は、実際的な知識が十分に自分のなかで蓄積されるとそれがドビングフォースとなり、対極の外向直観が主機能の場合は、実際的なデータや実証がたとえなくとも、ひらめきを伴う可能性がみえたときに一番モチベーションがあがる、となります。(もっと詳細についてご興味をお持ちのかたは「MBTIへの招待」 R ペアマンほか著・園田訳 「タイプ入門:タイプダイナミクスと発達編 L Kirbyほか著 園田訳」などを参照ください。)また、ストレスがかかったり、疲労困憊の状態になったりすると、意識のレベルは低下し、無意識に支配されやすくなることから、自分の劣等機能が勃発し、本来のその人らしくない自分が表出すると考えられています。たとえば前述の主機能が内向感覚の人の劣等機能、外向直観が勃発すると、将来について悲観的な可能性だけをみるようになったり、反対の外向直観が主機能の人の劣等機能が勃発すると、普段は気にかけない細かい事実にこだわりはじめたり、重箱の隅をつつき始めたりするのです。
私たちは自分たちの無意識はコントロールできませんが、意識した部分はコントロールができますので、自分の心のパターンが意識化されていると、自分の劣等機能が勃発したときのパターンも認識しやすくなり、自分らしからぬ自分の状態に陥らない選択を自らとることも可能となります。そのために、日ごろから、自分の利き手でない心、第三機能と劣等機能を意識的に開発し、成長させていると、劣等機能に支配される状態から逃れやすくなったり、たとえストレス下の影響下になっても、そこから抜け出しやすくなるといわれています。(ご興味顔ありの方は、「MBTIタイプ入門:タイプとストレス編 N. Quenk著 園田訳 2007年 JPP株式会社」をご参照いただければ幸いです。)

まとめ

心の成長とは、自分を見失わずに、意識的に、適切な場面で適切な心を適切に用いられることであるとマイヤーズが提唱していますが、自分に意識的であればあるほど、より自分の生きたい自分のほうに自分を近づけながら、また自分を表現しながら、成長していくことが可能となるといえるでしょう。またあえて意識的になることで、より自分の立ち居地がみえ、より自分の選択の範囲が広がったり、人と比べて一喜一憂したりすることも減るでしょうし、相手を自分のスクリーンを通さずにそのままをとらえようとする眼ができてきます。MBTIは、通常多大な時間を割かなければできない自分の意識化を可能とし、多大な労力をかけないとみえてこない深いところに存在している自分の動機を見出すことを可能とし、自分でも気がつかなかった資源としてもって生まれた独自の強みを発見できたりすることから、自分自身を肯定する材料を提供してくれます。またスキルではなく、自分の性格そのものが発揮しているリーダシップスタイルについての理解を深められます。さらに理論そのものに生涯発達の視点がもりこまれていることから、一度このフレームワークが個人のなかで深く体験されると、主機能が意識されやすくなることから、自分の心が自然とひっぱられている心の情報をとらえやすくなり、半永久的に自分の成長の羅針盤として機能してくれます。そのためMBTIは自分と接点をもって、「自分らしさ」に立ち戻りながら、日々を生きることを可能とするメソッドといえます。

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