実際の導入例および論文のご紹介

諸外国におけるMBTIエキスパートによるMBTIに関する論文

「誤用を防ぐ三つのポイント」
(教育学者・コンサルタント・元APT会長 米国MBTIトレーナー ロジャー・ペアマン、園田由紀訳)

出典:Japan-APT ニューズレター №2

<驚くべき無理解、不注意>

 周知の通り、われわれAPTが団体として存在している第一の理由は、心理学的タイプ論とMBTIの倫理的な利用を推進するためである。MBTIやそのほかの心理検査が、ここ十年の間、組織場面やあらゆる成長支援の場面での利用が展開されるにつれ、それらの倫理的利用にまつわる問題点が深刻になってきている。われわれAPTのメンバーはこうした誤用に関する問題にもっと関心を持たねばならない。MBTIを誤って使用したために、受検者にとってMBTIがよくない経験となってしまい、人の違いを肯定的にとらえるどころか、偏ったみかたを植えつけてしまうこともあり、その原因をつくったのは、他でもない誤用した有資格者ということになるからだ。

 何年か前にペンシルベニア州の某製薬会社のコンサルティングを請け負ったときのことである。私がMBTIを用いないプログラムを企画したところ、人材開発部の責任者が大変に喜んだことがあった。彼自身が体験したMBTIというのはひどいものだったため、同じ経験を自分たちのスタッフにはさせたくないということだった。おそらく誤用による悪い体験のせいだろうと想定して確認したところ、APTの会員ではないコンサルタントが、当時その部長が所属していた会社のいくつかのチームに検査を実施し、次のようなことを解説したという。「あなたは、自分に適さない仕事に就いてしまっているようです。残念ながらあなたのタイプはこの仕事に適性はなく成功は難しいでしょう」。

 また二か月前、ノースキャロライナ州の最大手自動車ディーラーの社長から、スタッフにMBTIのフィードバックを三十分で行ってほしいという依頼の電話を受けた。私が本来のフィードバックのプロセスや、倫理的な利用方法について説明したところ、「わかりました。他にやってくれる人を探すからもう結構です」、そうはき捨てるように電話は切られた。また先週もあるAPTの会員から、個人のフィードバック場面で、特定の場面に限りAPTの倫理規定を遵守しないでよい、という許可をもらえないだろうかという依頼をうけたばかりだ。彼女が言うには、遠方のクライエントとは直接会うことができないので、MBTIのフィードバックを郵便でしたいという申し出だった。郵送でのフィードバックができない理由を説明すると、彼女は、「私は倫理的な人間だし、常識もある人間です。APTの倫理には反してしまうかもしれないけど、今回に限り郵送でフィードバックしても、私が誰かを傷つけるようなことは断じてないのに」と怒りをあらわにした。

 そのほかにも、いままで、MBTIの有資格者からフィードバックを受けた人たちから、数多くの手紙を受け取っている。彼らの手紙には、「専門家」たちが一様に、MBTIの指向得点は、心の機能の強さや、どの程度うまく使えているかというのをMBTIという心理検査で測定した結果だ、と説明しているという。私は過去十八か月にわたり、APTの会長として務めているが、このような問い合わせが跡を絶たない。すべてを総括すると、誤用においてわれわれが対峙しなければならない三つのテーマがみえてきた。その三つとは、自己決定権の侵害、専門家(実施者)の能力不足、そして専門家の知識不足である。

 今回この誤用について書こうと思い立った背景に、読者の皆さんにこの重要な問題点に注意を喚起し、積極的な討論を促進したかったからだ。MBTIの有資格者を作り出している団体に所属する会員はこの問題について同じ責任を担っているといえるからだ。

 ゲイリー・ズカフが提唱したように、わたしたちが原因に関与するかぎり、結果に関与しないということは不可能である。最も深いところで、私たちは自分たちの行動や意思の責任を負っているものだ。だから私たちは自分たちの意思に気づき、自分たちの望む結果に添って意思を選択していくことが賢明なのである。

 次にポイントをあげるので、こうした倫理的問題に注意をはらうように務め、私たち一人ひとりがより責任のある行動をとっていくように望みたい。

<自己決定権の尊重>

 MBTIの倫理規定にとって最も基本的なことは、自己決定の権利である。悲しいことに、この権利の侵害に関しての訴えが、他の何よりも多い。この権利はインフォームドコンセントによるタイプ結果の守秘義務とともに自己決定において最も基本的なものである。フィードバック場面で、公平であることや自分の言動に責任を持ってもらうこと、自由な雰囲気で回答できること、そして受容的な雰囲気で自己開示を促せること、などはすべて自己決定の権利を尊重してはじめてできるものである。

 以下に、この権利の侵害が起きやすい例をあげる

  • 自発的な環境がつくれない場合:例えば社内一斉研修や大学入学時のオリエンテーションなど参加が強制的な場面での検査実施。
  • 個人のタイプが本人の許可なく披露されてしまう場合:報告された結果が、本人の許可なく提示されること。
  • 本人のタイプ検証過程が不十分な場合:例えばMBTIの結果報告書が、事前の説明や『タイプ入門』などのサポートツールなしに配布されてしまい、安易な即断を招き、タイプという概念をステレオタイプ化して受けとめるだけになる。
  • タイプへの偏った見方を提示したり、個人の特徴を特定のタイプに押し込めるような表現を用いた場合:どちらか一方の指向を必然的に選ばせるように提示したり、タイプを要約したような言い回しをし、ラベリングをしてしまう。例えば〇×タイプは、管理者タイプなど。
  • MBTIのデータの管理不十分や取り扱いの不注意:報告書を上司に手渡してしまったり、回答済みの回答用紙を「安全でない」場所に保管したりする。

<フィードバック者の能力不足>

 自己決定の侵害の次に訴えが多いのが、フィードバック者の能力不足である。私が受けた手紙や電話から判断すると、多くの専門家が自分のMBTIの捉え方、解説の仕方、フィードバックの仕方が間違っていることを理解する能力に欠けているか、もしくはMBTIのもっと有効な利用方法を学ぶことに無関心であるということ。例をあげれば、

  • 不正確な結果報告書の解釈をしてしまう。例えば指向得点が能力や発達段階を測定するものであるとしたり、一番高い指向得点が主機能を示すものとして報告する。
  • 個人の経験や状況の要因がどのように検査結果に影響するかを無視してしまい、不完全な解説をする。
  • 個人の成功を予測したりキャリア適性をみるために、タイプテーブルやキャリアデータを使ってしまうこと。例えば職種別のタイプテーブルをみせて、そのタイプ分布がキャリアの適性を示していると説明する。
  • 結果が配布され、個人が思いをめぐらせている間に簡単に説明をすませてしまう。
  • 指向に関して決め付けた言葉を用いてしまう。例えば直観が創造性に直結しているといってしまう、など。

<フィードバック者の知識不足>

 専門家が自分の知識の量を増やしたり、それを他の専門家と共有したりするその積み重ねで、お互いを高めたり、誤用を防ぐことにつながる。すなわち専門家は常に新しい情報を入手することが、建設的で肯定的な情報を受検者に提供できたり、よりよいフィードバックができることにつながっていく。しいては諸問題を予め回避できることになる。知識不足は次のような問題をひきおこす。

  • MBTIの購買資格はあるが、トレーニングを受けていない専門家の場合(米国のみ)よく起きるケースとして、MBTIをたんに性格を測定して得た検査結果のように取り扱い、四つの指標をそれぞれ独立したものと見て、タイプダイナミクスを無視した単純なプロフィール解釈にとどめてしまう。
  • 個人内の知識レベルでとどまってしまう。
  • タイプ論について知識が不足しているものが検査を実施すると、タイプダイナミクスを理解できなかったり、タイプを固定されたものとして提示してしまう。
  • 資格を取得しただけで、学会やワークショップやフォローセッションなどに参加しなかったり、研究論文を読まない有資格者の場合、解説が常に不正確で不完全なものになり、適切なタイプ利用方法が提示されないため、結果的には、受検者にMBTIを「売った」だけになってしまう。

<何をしたら良いのか>

 以上のような問題に際して、当然ながら出てくる疑問は「タイプ論とMBTIの倫理的な問題に関して、われわれがなすべきことはなにか」ということだが、まずは一人ひとりが専門家として真摯にこの問題と向き合い、できることをすることである。できることとは、

  • MBTIについての研究論文を読んだり、関連する知識を増やしたり、フィードバックスキルを磨くことをはじめ、自分たちのフィードバックの内容について指導を受けることが重要である。常に自分のフィードバックが他者にどのように体験されるのか捉えておくべきである。特に自分のタイプと異なる人がどのように体験しているかは、重要な学びといえる。
  • APTの支部に関わったり、自主的な勉強会を開催する。そのなかで倫理的な問題を検討したり解決法についてブレーンストーミングをおこなうのもよいだろう。
  • APTの学会や研修などで発表したり、APTと積極的に関わるのもよいだろう。
  • APTの倫理規定のパンフレットをもとに、勇気を持って誤用者を教育することもわれわれの義務といえる。

 われわれが、タイプ論という貴重な知識を使って、個人ができるかぎり最大限に活かされるように支援するには、自己決定の権利を尊重し、専門家として自分の未熟な部分や不足している部分と向き合う勇気を持って学びつづけ、タイプに関して知識を増やし続けなければならない。「意識に上ってこないものは、人生において運命として現われる。人は光を想像することによってではなく、暗闇に気づくことによって啓蒙されるのである」とユングは提唱しているが、これは個人レベルでも組織レベルにおいてもあてはまる。私たちはMBTIの専門家として学びつづけ、見過ごしがちな問題に気づける不断の努力が必要なのだ。それはアインシュタインのロシアアカデミーへの手紙での言葉をかりると、こうである。

 「良き市民は、相互理解のためには、可能な限りを尽くして貢献すべきである。そこに倫理的な文化背景がない場合、人を真に侵害から守ることはできないのである」。

出典

Einstein (1945) Ideas and Opinions. Grown Publishers: New York

引用文献

Zukav (1989) "The seat of the Soul" Simon & Schuster:New York

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